みなさんこんにちは。今回は映画「8年越しの花嫁 奇跡の実話」で広く認知された「抗NMDA受容体脳炎」について専門じゃない方にも分かりやすく説明しますね。
この抗NMDA受容体脳炎は2007年の1月に提唱されたばかりの新しい(という表現は不適切ですが)病です。
抗NMDA受容体脳炎
「抗○○」
まず、「抗○○」と書かれていることの説明から入ります。今回の病では「抗NMDA受容体」と書かれています。この「抗」とはどういう意味なのでしょうか?この「抗」は英語でanti(アンチ)です。
よく、ある歌手のファンとかアンチとか言いますが、そのantiです。つまり、「抗○○」というのは、「○○に攻撃する」という意味です。
したがって、今回の「抗NMDA受容体」というのは、「NMDA受容体に対して攻撃をする」という意味です
NMDA受容体
「抗NMDA受容体」の意味は「NMDA受容体に攻撃する」ということだと分かりましたので、次に、NMDA受容体ってなんなのよって話です。NMDA受容体は、あるアミノ酸(グルタミン酸)の受容体です。受容体というのは、「受け取り側」という意味です。クロネコヤマトで宅急便が送られてきて、それを受け取るあなたが受容体です。そんなイメージです。
脳炎
脳炎は名前くらいは聞いたことがあると思います。字の通り、脳みそが炎症を起こしている状態のことです。炎症によって、頭痛、発熱、意識障害、麻痺等が起こる可能性があり、非常に危険です。抗NMDA受容体脳炎
では、ここまでの情報をまとめてみると、「抗NMDA受容体脳炎」は、あるアミノ酸の受け取り手(NMDA受容体)が攻撃される(抗)ことによって起こる脳炎だということになります。症状
前駆期:発熱,頭痛,倦怠感など↓
精神病期:無気力,無感動,抑鬱,不安,孤独など種々の感情が出現する。また,携帯電話の使い方が分からない等の日常の単純な行為も難しくなる。
↓
無反応期:目を開けているが、運動も言葉をしゃべることもほとんどなく,外からの刺激に対する反応もほぼ無い。
↓
不随意運動期:不随意運(自分でコントロールしない動作)は徐々に増え,舌を出し入れしたり,ご飯を食べている時のように激しく口をもごもごさせたり、ダンスのようなリズミカルな運動もする。
「抗」の正体
さて、「抗NMDA受容体脳炎」は、あるアミノ酸の受け取り手(NMDA受容体)が攻撃される(抗)ことによって起こる脳炎だということが分かりました。では、NMDA受容体を攻撃する「抗」はどこから来たのでしょうか?この、NMDA受容体を攻撃する物質「抗」は、実は抗体です。あの、体内に入ってきたウイルスや細菌と戦う抗体のことです。
通常、我々の体内の抗体は自分を攻撃しないものばかりなのですが、なんらかの原因によって、自分自身を攻撃してしまうことがあります。これが自己免疫疾患と呼ばれるもので、「8年越しの花嫁~」が掛かった「抗NMDA受容体脳炎」も自己免疫疾患の一種です。
原因
自己免疫疾患は、自分を攻撃してしまう抗体が体内で作られてしまうことによって起こりますが、これが起きてしまう根本的な原因は分かっていません。抗NMDA受容体脳炎を発症した患者から腫瘍(がん)が発見される例が多くありますが、腫瘍(がん)が無い患者もいますので、腫瘍(がん)の有無だけが原因ということもなさそうです。
誰にでも起こる可能性がある
この「8年越しの花嫁~」が掛かった病(抗受容体脳炎)は、根本的な原因が分かっていないので予防法などもありません。それによって、誰でも掛かってしまう可能性を持っています。特に、患者は若い女性が多くなっています。(ある論文では患者100名中女性は91名、年齢の中央値は23歳)おわりに
今回紹介した「8年越しの花嫁~」の掛かった病「抗NMDA受容体脳炎」は如何だったでしょうか。この病は2007年に提唱されたばかりなので、知らない医師も多く、一般人の認知も低いです。現在では、映画「エクソシスト」のモデルになった症状も「8年越しの花嫁~」と同じ病だったのではないかという話もあります。今回、「8年越しの花嫁~」が公開され、「抗NMDA受容体脳炎」が広く知られるようになって不当に精神病と誤診されるような人が減れば嬉しいですね。
ちなみに、この夫婦のドキュメンタリーは2015年に奇跡体験アンビリバボーで紹介されています。アンビリの記事を見る>>>